FIRフィルター搭載miniDSPプロセッサー:miniDSP 2×4 HD、Flex/Flex TRS、Flex Eight
このアプリケーションノートを効果的に活用するためには、音響測定、スピーカー設計、DSPの基本をある程度理解しておく必要があります。以下、関連するアプリケーションノートと電子書籍です。
rePhaseは次のような用途に使用できます。
FIRフィルター自体は、部屋の音響的な問題を補正するために使用することも可能です。したがって、rePhaseをその目的で使うことはできますが、ここでは触れません。
理由は、miniDSPプロセッサーに搭載されているFIRフィルターの用途は、その仕様から(主にFIRフィルターのタップ数)、スピーカーの最適化の目的に絞られているからです。
rePhaseで設計した結果を、適切なminiDSPプロセッサーにロードすることでFIRフィルターを簡単に実現できます。繰り返しになりますが、それはスピーカーの最適設計ツールであることに注意してください。ここでは、上記の2つのスピーカー設計シナリオのそれぞれの例を解説します。
rePhaseのユーザーインターフェースでは、測定プログラムから測定値をインポートし、補正フィルターの振幅と位相を操作することができます。インターフェースは非常に直感的で、予測されたレスポンスのグラフや、タブでアクセスできるいくつもの種類の操作画面が含まれています。
位相と振幅の補正機能は、メインのタブからアクセスします。
以下、これらの各タブを取り上げます。
rePhaseの動作を理解する上で重要なポイントは、フィルターの振幅と位相のレスポンスを個別に調整できることです。
下の図を見てください。振幅は青い実線で、位相は青い点線で示されています。
この例では、以下のように異なる周波数で3つのフィルターが適用されています。
この例では、rePhase を使って、スピーカーのクロスオーバーの位相をリニアライズ(線形位相化)します。
このテクニックは、クロスオーバーがパッシブ(ラウドスピーカーボックス内のパッシブ回路)、アナログ・アクティブ・クロスオーバー、デジタル・アクティブ・クロスオーバーのいずれであっても使用できます。ただし、リニアライズは、それらクロスオーバーがリンクウィッツ・ライリー(Linkwitz-Riley)の偶数次クロスオーバーの場合のみ機能します。
この例のスピーカーは、3kHzで4次(24dB/オクターブ)のリンクウィッツ・ライリー・クロスオーバーを持ち、80Hzでロールオフする密閉型ボックスです。
まず、スピーカーのレスポンスを測定し、その測定値をrePhaseにインポートします。次に、Minimum-Phase Filters Linearizationタブで、クロスオーバーと80Hzロールオフの補正フィルターを追加します。
下図は、振幅特性を実線で、位相特性を点線で示しています。元の特性は赤のグラフです。FIRフィルターによって補正された特性(計算による予測)は青のグラフです。
ご覧のように、振幅特性は変わりませんが、位相特性は平らになっています(位相は360度でラップ表示させているため、位相が-360度で平らになっているのはゼロ度に等しいことを表します)。
FIRフィルター係数を生成するには、以下に示すようにImpulse Settings(インパルス設定)を行い、generateを押します。
注意:上記の設定は、miniDSPプロセッサーによって異なります。例えば、Flex Eight 用のフィルターを生成する場合は、taps パラメーターを 2048 に、rate パラメーターを 96000 に設定します。
設定時には、必ずminiDSPプロセッサーの仕様を日本語マニュアル等で確認してください。
通常、ステレオシステムではLRチャンネルで同じフィルターを使用するため、生成ファイル(FIRフィルター係数)を両チャンネルのFIRフィルターブロックにロードします。(この詳しいやり方は、製品付属の日本語マニュアルを参照してください)。
最後に、スピーカーを再度測定し、結果を確認します。
ここでは、例のスピーカーの位相を測定しています。補正前のスピーカーの位相を赤、補正フィルター適用後の位相を青で示しています(緑は後ほど説明します)。
一般的に、スピーカーのクロスオーバーのリニアライズは、それほど簡単ではありません。したがって、繰り返しになりますが、rePhaseは、リンクウィッツ・ライリー・クロスオーバーの線形位相化のみをサポートしています。
任意のクロスオーバーの位相補正を行うには、Paragraphic Phase EQタブを使用します。
Paragraphic Phase EQタブには、ベル型のカーブで位相を上下に調整するスライダーのセットがあります。スライダーを操作することで、位相シフト量に加えて、各ベルのQ(シャープネス)と中心周波数を変更できます。この機能を使って、先の例のスピーカーに低域の位相補正を追加した結果が、上のグラフの緑色で示されています。低域が、青に比べてよりゼロ度に近くなっていることがわかります。
位相補正の効果は、様々な方法で(rePhase以外のツールを用いてください)、時間領域で観察することができます。例えば、以下は補正前(赤)と補正後(青)のスピーカーのインパルス応答です。
以下は、位相補正前の、2kHzの矩形波をスピーカーに入力した際の出力波形(マイクロホンで測定)です。
以下は、補正後の波形です。より元の矩形波に近くなっていることがわかります。
ここでは、rePhaseを使って、ゼロからリニアフェイズ・クロスオーバーを設計します。
例として、例1のスピーカーをリニアフェイズの2ウェイ・クロスオーバーで作り直します。
最初に、各ドライバーの音響特性を、クロスオーバー・フィルターがない状態で測定します。各ドライバーについて、次のことを行います。
大変に思うかもしれませんが、rePhaseの仕組みを理解すれば簡単です。下図では、rePhaseに読み込まれたスピーカーのウーファー測定結果を赤で示し、上記のステップ1~5の後に計算された予測特性を青で示しています。
次のステップは、クロスオーバー・フィルターの選択です。
rePhaseには、幅広いフィルタータイプがあります。ここでは、急峻な(96dB/オクターブ)カットオフのオーバーラップ・クロスオーバーをウーファーに使用しています。
インパルス応答をエクスポートするには、次のような設定を使います。インパルス応答のピークが全長の中央になるように、centeringオプションを “middle”に設定することをお勧めします(以下まとめと使用上の注意4を参照)。
ウーファーが完成したら、トゥイーターについても同じ作業を繰り返します。各ドライバーは、別々のrePhaseプロジェクトで行ってください。
インパルス応答をプロセッサーの出力チャンネルのFIRブロックにロードし、ドライバーを個別に、そして組み合わせて再測定します。
ドライバーの音響的オフセットやインパルス応答のピークの位置の違いを調整するために、タイムアライメントが必要になる場合があります。
次のグラフは、ウーファーとトゥイーターの個別の応答を青と緑で、組み合わせた応答を紫色で示しています(以下まとめと使用上の注意の5と6を参照)。
下図が位相特性の測定値です。全帯域に渡って位相がほぼゼロ度であることがわかります。