miniDSP 日本唯一の正規販売サイト

  カーオーディオのチューニング手順

このアプリケーションノートは、REWによるカーオーディオチューニングに関するシリーズの一部です。
最初に、カーオーディオ概要をお読みになり、その後でこのアプリケーションノートをご覧ください。

<関連製品>

音響測定マイク: UMIK-1またはUMIK-2

<解説>

ここでは、カーオーディオのチューニングをminiDSP製品とREWでどのように行うか、具体的に解説します。

1.感度や周波数応答のチェック

スピーカー、DSP、アンプ、ケーブル、マイク、REWを用意したら、最初にスピーカーの感度と極性を確認します。
感度を確認するには、車の中央にマイクを置きます。同じ出力レベルでスイープ信号を用いてすべてのスピーカーを測定し、意味のあるペア、例えばドアウーファー左とドアウーファー右などで音圧レベルと周波数応答を比較します。もちろん、各ペアの音圧レベルと周波数応答は類似しているはずです。
測定結果を見れば、短絡や断線などの配線不良などのセットアップの問題も発見できます。

下のグラフは、左右のドアウーファーの周波数応答の例です。よく似ていますから、セットアップ時の問題は見当たりません。

下のグラフは、3Wayスピーカーシステムのウーファー(オレンジ)、スコーカー(緑)、ツイーター(紫)の周波数応答の例です。
各帯域がかなりオーバーラップしていますので、クロスオーバーをチューニングすると音質が改善する可能性があります。

なお、極性を確認するには、極性テスターや極性試験ソフトウェアを利用します。
1.5V乾電池を使用して確認することもできます。スピーカー配線をアンプに接続する前に、乾電池の+をスピーカーラインの+に、乾電池のーをスピーカーラインのーに接続し、期待どおりにスピーカーの振動板が正しい方向に動くかを確認します。

2.スピーカー保護とクロスオーバー

出力レベルの制限

間違った周波数帯域で使用したり、アンプからの出力レベルが強すぎたりすると、スピーカーが破損する可能性があります。チューニング時には、スピーカー保護のために、最初に出力レベルを下げておく必要があります。

そのためには、スピーカーのデータシートで周波数帯域に関する情報を確認します。
例えば、20ワットを許容できるスコーカー(中域再生スピーカー)をHarmony DSP 8×12に接続した際、Harmonyは最大40ワットを出力できるため、出力電力を半分にしておくと安全です。そのためには、出力を-6dB FSに設定します。

DSPにリミッターまたはコンプレッサーがある場合は、コンプレッション・レイシオー(圧縮比率)を20:1以上にするとリミッターに変わりますので、第二の保護対策としてそれを利用することもできます。

クロスオーバー

miniDSPのクロスオーバーは、すべての出力チャンネルに搭載されています。

下図は、スコーカーとトゥイーターの周波数応答の例です。
青で示している範囲(約700~2.8kHz)で、両スピーカーがきれいにマッチしていることがわかりますが、オーバーラップ帯域が大きすぎるので、急峻なクロスオーバーを使うと音質が改善する可能性があります。
その場合は、24dB/octリンクウィッツライリー・クロスオーバーから始めることをお勧めします。

ディレイを用いて、最適化することも重要です。
下図は、スコーカーとトゥイーター間に時間差があり、そのせいで1.5kHzと2kHz付近で大きなディップ(谷)が生じています。どのくらいの時間差があるか分かれば、miniDSPのディレイを用いて早く音が到達する方に、時間差分のディレイを入れば改善できます(次項を参照)。

3.到達時間の差と位相の補正

車室内では、各スピーカーはリスナーから異なる距離にあります。
前項の通り、音質の品質を改善するには、ディレイを使う必要があり、また、その行為は音質だけではなく、音像や定位の改善につながります。

目標は、スピーカーが異なる場所にあっても、すべてのスピーカーからリスナーへの音の到着時間を同じにすることです。
具体的には、リスナーとの物理的距離が最も大きいスピーカーを見つけて、それに応じて他のすべてのスピーカーを同じ距離に遅らせることです。これにより、システム全体のインパルス応答が大幅に向上します。

スピーカーの遅延量を調べるには、実際にスピーカーからの距離を測定するか、REW等の距離測定機能を持ったソフトの測定データを使用します。

下図の例は、実際に距離測定したものです。トゥイーターとリスナーの距離(0.5m)、そしてサブウーファーとの距離(1.35m)の差は、0.85mです。それは時間では、2.5msに相当します※。
※音速を340m/sで計算しています

遅延設定とクロスオーバーが完了したら、再びそのスピーカーシステム全体(3Wayであれば、トゥイーター・スコーカー・ウーファー)の周波数応答を測定します。
クロスオーバー帯域に大きなディップ(谷)やコムフィルターが無ければ、設定に問題はありません。
逆に、クロスオーバー帯域が急に減衰するなどのおかしな挙動があれば、もう一度遅延設定とクロスオーバー設定をやり直してください。

4.ルーティング

ルーティングとは、ステレオ信号のLRを車室内に配置されたスピーカーにどのように分配するかを意味します。多くの場合、左信号を車の左側に、右信号を車の右側にという単純な方法で実現します。
下図左は、単純なステレオ配置、下図右は後方のサブウーファーはL+R、車室内スピーカーは前に行くにしたがってLとRの分離が小さくなるようにルーティングしたイメージ図です。

miniDSPのルーティング機能を使って、ソースからの信号を車室内に配置された複数のスピーカーに分配してみてください。
すばらしい音像定位や拡がり感を生むことができます。より没入型(イマーシブ)の体験が生まれ、スピーカーはそれぞれに個別の信号が与えられた単一のスピーカーの束ではなく、チームのように機能します。
特に、多チャンネル入出力に対応したminiDSP C-DSP 8×12 DL およびHarmony DSP 8×12は、その素晴らしい可能性を提供します。

ルーティングは、miniDSPのプラグインソフトウェアを使えば簡単に実現できます。
下図は、C-DSP 8×12 DLのプラグインソフトのルーティング画面例です。フェーダーと極性反転ツールを使用して、例えばリアドアのバックフィル信号、LRを足したセンター信号、LRがオーバーラップしたフロントフィル信号などを作り、各スピーカーに送ります。

5.ベースマネージメント(低音の最適化)

車室の容積は小さいため (約2.5~4 m3)、通常はリスナーの場所によって低音の聴こえ方にばらつきが生じます。しかし、複数の低音再生用スピーカーを使用すると、位置の依存性が軽減され (座席内で頭を動かしたときの変化が少なくなり)、すべての座席での低音の一貫性が向上します。この概念を「モノ・ベース」と呼びます。
また、個々のサブウーファー/ウーファーの出力レベルを小さくできるので、スピーカー取り付け付近のシャーシパーツへの機械的ストレスが軽減されるため、車室内のインテリア部材のこすれやびびり音が軽減されます。

miniDSPのC-DSP 製品のプラグインソフトでは、下図のようにInputs & Bass Management タブでモノの低域信号を作り出し、その後複数の出力チャンネルに信号を送ることができます。

6.イコライゼーション(EQ)

一般に、イコライザーは周波数応答の欠陥を補うために使用されます。ここでは、カーオーディオにおけるいくつかの注意点とテクニックについて述べたいと思います。

使用するEQは少ない方が良い
miniDSP内のすべてのPEQ(パラメトリックEQ)や信号処理機能を使う必要はありません。
例えば、安易にPEQを追加する前に、現在操作中のPEQを最大限活用し、実際に聴いてみて出来栄えを評価することが重要です。その上で、さらにPEQが必要であれば、1つずつ追加します。

ナローバンド(狭帯域)のEQ
例えば、Qが9以上のEQは役に立たないことが多いです。私たちの耳のスペクトル分解能(1/3~1/6オクターブが目安)は限られていますから、効果が望めません。

ヌルポイント(音が無くなるポイント)
スピーカーからの直接音同士、あるいは車室内の反射音の干渉のせいで、ある周波数で音が極端に小さくなることがあります。それを、一般にヌルポイントと呼びます。
これらの周波数では、元々音が打ち消されているのでEQでレベルを操作しても無駄です。つまり、EQ以前のチューニングで、ヌルポイントが生じないようにしておく必要があります。

トップダウンとボトムアップ
チューニングは、どのスピーカーグループから始めるのがベストでしょうか?
例えば、トゥイーターから始めて、ミッドレンジ、ミッドバス、サブウーファーへと下っていく(トップダウン)、あるいは、サブウーファーから始めて、ミッドバス、ミッドレンジ、トゥイーターへと上がっていく(ボトムアップ)か。
一般的には、ボトムアップをお勧めします。低音は音楽のまさにベースを形作るので、チューニングといえども音を確認しやすいからです。

上げるよりも下げる
周波数応答グラフを読むとき、ある周波数帯域でレベルが不足しているように見えると、その帯域を上げたくなるのは自然です。しかし、逆の発想をした方がよいです。「ないものを足す」のではなく、「多すぎるものを取り除く」のです。

特に、デジタル音源はヘッドルーム(クリップまでのレベルの余裕)があまりないので、EQでレベルを上げることはお勧めできません。
もちろん、決して禁止されているわけではありませんし、すぐに音質が悪くなるわけでもありませんが、信号がクリップしないように注意深く行う必要があります。どうしてもEQで特定周波数を上げる場合は、EQに入力する手前で全体レベルを減衰させておくのが安心です。

オールパスフィルター
レベルではなく位相のみを変化させるオールパスフィルターは、時としてチューニングの重要なツールになります。特に、ミッドレンジ(中域)およびミッドベースチャネル(中低域)で、特定の周波数帯域だけ遅延させたい場合に便利です。