miniDSP 日本唯一の正規販売サイト

  rePhase 紹介

<関連製品>

FIRフィルター搭載miniDSPプロセッサー:miniDSP 2×4 HDFlex/Flex TRSFlex Eight

<概要>

rePhaseは、miniDSPコミュニティ長年のメンバーであるThomasによって書かれたWindowsベースのフリーウェアプログラムです。rePhaseは、多くのminiDSPプロセッサーに実装可能なFIRフィルターの係数を生成できます。
ここでは、リニアフェイズ特性を実現するためのスピーカー補正およびクロスオーバー設計を例として説明します。

<必要なもの>

<解説>

基本

このアプリケーションノートを効果的に活用するためには、音響測定、スピーカー設計、DSPの基本をある程度理解しておく必要があります。以下、関連するアプリケーションノートと電子書籍です。

rePhase の機能概要

rePhaseは次のような用途に使用できます。

  • デジタル、アナログを問わず、従来のスピーカー・クロスオーバーの位相特性をリニアフェイズに補正する。
  • リニアフェイズ・クロスオーバーを ゼロから設計する。

 

FIRフィルター自体は、部屋の音響的な問題を補正するために使用することも可能です。したがって、rePhaseをその目的で使うことはできますが、ここでは触れません。
理由は、miniDSPプロセッサーに搭載されているFIRフィルターの用途は、その仕様から(主にFIRフィルターのタップ数)、スピーカーの最適化の目的に絞られているからです。

rePhaseで設計した結果を、適切なminiDSPプロセッサーにロードすることでFIRフィルターを簡単に実現できます。繰り返しになりますが、それはスピーカーの最適設計ツールであることに注意してください。ここでは、上記の2つのスピーカー設計シナリオのそれぞれの例を解説します。

rePhaseのユーザーインターフェースでは、測定プログラムから測定値をインポートし、補正フィルターの振幅と位相を操作することができます。インターフェースは非常に直感的で、予測されたレスポンスのグラフや、タブでアクセスできるいくつもの種類の操作画面が含まれています。

位相と振幅の補正機能は、メインのタブからアクセスします。

以下、これらの各タブを取り上げます。
rePhaseの動作を理解する上で重要なポイントは、フィルターの振幅と位相のレスポンスを個別に調整できることです。
下の図を見てください。振幅は青い実線で、位相は青い点線で示されています。

この例では、以下のように異なる周波数で3つのフィルターが適用されています。

  • 100 Hz:最小位相のノッチフィルター。振幅特性のノッチに加え、中心周波数付近の位相応答にうねりがあります。これは通常のパラメトリック・イコライザー(IIRフィルターまたはアナログ)の典型的な現象です。
  • 1 kHz:直線位相ノッチフィルター。振幅が変化しても、中心周波数付近で位相がまったく変化していません。
  • 10 kHz:位相シフトフィルター。振幅特性は変化していません。このフィルタータイプは、一般的なクロスオーバー・フィルターによって引き起こされる位相シフトを補正するために使うことができます。

例1:スピーカー全体の位相補正

この例では、rePhase を使って、スピーカーのクロスオーバーの位相をリニアライズ(線形位相化)します。
このテクニックは、クロスオーバーがパッシブ(ラウドスピーカーボックス内のパッシブ回路)、アナログ・アクティブ・クロスオーバー、デジタル・アクティブ・クロスオーバーのいずれであっても使用できます。ただし、リニアライズは、それらクロスオーバーがリンクウィッツ・ライリー(Linkwitz-Riley)の偶数次クロスオーバーの場合のみ機能します。

この例のスピーカーは、3kHzで4次(24dB/オクターブ)のリンクウィッツ・ライリー・クロスオーバーを持ち、80Hzでロールオフする密閉型ボックスです。
まず、スピーカーのレスポンスを測定し、その測定値をrePhaseにインポートします。次に、Minimum-Phase Filters Linearizationタブで、クロスオーバーと80Hzロールオフの補正フィルターを追加します。

下図は、振幅特性を実線で、位相特性を点線で示しています。元の特性は赤のグラフです。FIRフィルターによって補正された特性(計算による予測)は青のグラフです。
ご覧のように、振幅特性は変わりませんが、位相特性は平らになっています(位相は360度でラップ表示させているため、位相が-360度で平らになっているのはゼロ度に等しいことを表します)。

FIRフィルター係数を生成するには、以下に示すようにImpulse Settings(インパルス設定)を行い、generateを押します。

注意:上記の設定は、miniDSPプロセッサーによって異なります。例えば、Flex Eight 用のフィルターを生成する場合は、taps パラメーターを 2048 に、rate パラメーターを 96000 に設定します。
設定時には、必ずminiDSPプロセッサーの仕様を日本語マニュアル等で確認してください。


通常、ステレオシステムではLRチャンネルで同じフィルターを使用するため、生成ファイル(FIRフィルター係数)を両チャンネルのFIRフィルターブロックにロードします。(この詳しいやり方は、製品付属の日本語マニュアルを参照してください)。

最後に、スピーカーを再度測定し、結果を確認します。
ここでは、例のスピーカーの位相を測定しています。補正前のスピーカーの位相を赤、補正フィルター適用後の位相を青で示しています(緑は後ほど説明します)。

一般的に、スピーカーのクロスオーバーのリニアライズは、それほど簡単ではありません。したがって、繰り返しになりますが、rePhaseは、リンクウィッツ・ライリー・クロスオーバーの線形位相化のみをサポートしています。

任意のクロスオーバーの位相補正を行うには、Paragraphic Phase EQタブを使用します。
Paragraphic Phase EQタブには、ベル型のカーブで位相を上下に調整するスライダーのセットがあります。スライダーを操作することで、位相シフト量に加えて、各ベルのQ(シャープネス)と中心周波数を変更できます。この機能を使って、先の例のスピーカーに低域の位相補正を追加した結果が、上のグラフの緑色で示されています。低域が、青に比べてよりゼロ度に近くなっていることがわかります。

位相補正の効果は、様々な方法で(rePhase以外のツールを用いてください)、時間領域で観察することができます。例えば、以下は補正前(赤)と補正後(青)のスピーカーのインパルス応答です。

以下は、位相補正前の、2kHzの矩形波をスピーカーに入力した際の出力波形(マイクロホンで測定)です。

以下は、補正後の波形です。より元の矩形波に近くなっていることがわかります。

例2:リニアフェイズ・クロスオーバーの設計

ここでは、rePhaseを使って、ゼロからリニアフェイズ・クロスオーバーを設計します。
例として、例1のスピーカーをリニアフェイズの2ウェイ・クロスオーバーで作り直します。

最初に、各ドライバーの音響特性を、クロスオーバー・フィルターがない状態で測定します。各ドライバーについて、次のことを行います。

  1.  測定プログラムから測定値を、ファイルにエクスポートします(REW では、File→Export→Measurement as Text)。
  2.  測定ファイルをrePhaseにインポートします。
  3.  Paragraphic Gain EQ タブと最小位相フィルターを使用して、振幅応答をフラットにします。
  4.  Filters Linearization タブを使用して、スピーカーボックスのロールオフ位相を補正します。
  5.  Paragraphic Phase EQタブで残りの位相補正を行います。
  6.  Linear Phase Filtersタブで目的のクロスオーバー・フィルターを作成します。
  7.  rePhaseからインパルス応答をファイルにエクスポートします。
  8.  miniDSP Device Consoleを使ってインパルス応答ファイルをロードし、miniDSPプロセッサー上に実現します。
  9.  ドライバーを再度測定し、期待通りの結果が得られていることを確認します。

大変に思うかもしれませんが、rePhaseの仕組みを理解すれば簡単です。下図では、rePhaseに読み込まれたスピーカーのウーファー測定結果を赤で示し、上記のステップ1~5の後に計算された予測特性を青で示しています。

次のステップは、クロスオーバー・フィルターの選択です。
rePhaseには、幅広いフィルタータイプがあります。ここでは、急峻な(96dB/オクターブ)カットオフのオーバーラップ・クロスオーバーをウーファーに使用しています。

インパルス応答をエクスポートするには、次のような設定を使います。インパルス応答のピークが全長の中央になるように、centeringオプションを “middle”に設定することをお勧めします(以下まとめと使用上の注意4を参照)。

ウーファーが完成したら、トゥイーターについても同じ作業を繰り返します。各ドライバーは、別々のrePhaseプロジェクトで行ってください。

インパルス応答をプロセッサーの出力チャンネルのFIRブロックにロードし、ドライバーを個別に、そして組み合わせて再測定します。
ドライバーの音響的オフセットやインパルス応答のピークの位置の違いを調整するために、タイムアライメントが必要になる場合があります。

次のグラフは、ウーファーとトゥイーターの個別の応答を青と緑で、組み合わせた応答を紫色で示しています(以下まとめと使用上の注意の5と6を参照)。

下図が位相特性の測定値です。全帯域に渡って位相がほぼゼロ度であることがわかります。

まとめと使用上の注意

  1.  FIRタップ数によっては、要求されたフィルターが実現できない場合があります。generateを押すと、rePhaseは実際に実現可能なレスポンスを赤で表示します。
  2.  生成されたFIRフィルターで処理すると、入力信号と出力信号の間に大なり小なり遅延が発生します。CD再生では問題ありませんが、ビデオとの同期が必要な場合や、音楽のレコーディングやライブ・パフォーマンスでは問題になることがあります。
  3.  FIRフィルターが生成したインパルス応答の、ピークより前の部分は、”プリリンギング “と呼ばれます。これがどの程度聴こえるのか、またどのような状況下で聴こえるのかについては議論が分かれるところですが、FIRフィルターを使って設計する際には頭に入れておくのがよいでしょう。
  4.  マルチウェイ・スピーカーを実装する場合、各ドライバーのインパルス応答のピークを時間的に揃える必要があります。そのため、上記の例では、各FIRフィルターのピークがインパルス応答の中央の位置になるように”middle”センタリング・オプションを各FIRフィルターで設定しました。もし、各ドライバーのFIRフィルターの長さが異なる場合には、ドライバーからの音響信号をタイムアライメントさせるために、別途、ディレイを用いた調整が必要になります。
  5.  DSPでの信号処理以上に、ドライバーの選択とキャビネットのデザインが非常に重要です。例えば、上記の例では7~8kHzの領域に問題がありますが、これはデジタル的に補正すべきではありません。むしろ、より良いキャビネットの設計や別のトゥイーターの検討が必要です。
  6.  スピーカー軸上の音響測定は、空間の1点のみで行われます。スピーカーは複数のドライバーを使用しているため、ドライバー間の干渉があり、空間の他の点では音響特性が異なります。したがって、スピーカー軸上以外の特性も測定し、設計目標に合わせて最適化する必要があります。