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  スピーカードライバーのタイムアライメント

<関連製品>

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  • 音響測定および分析プログラム:Room EQ Wizard(REW)

<解説>

概要

スピーカーを設計する場合、スピーカードライバー(以下ドライバー)間の正しいタイムアライメントが必要です。
ここでは、UMIK-1またはUMIK-2Room EQ Wizard(REW)を使って、ドライバー間の音響的な時間遅延を測定する方法について説明します。
この測定結果をもとに、miniDSPプラグインでタイムディレイを設定し、ドライバーをタイムアライメントさせることができます。
ここでは、REWの使い方はご存知であることを前提としています。

注意:ここで説明する方法は、あらかじめパラメトリックEQやFIRフィルターを使って各ドライバーの応答をフラットにし、再生帯域でレベルが等しくなるように調整済みであることを前提としています。

測定用のマイクの位置を決める

ドライバー間の音響遅延を測定する場合、下図赤✕印のマイクロホンのようにトゥイーターの高さにマイクロホンを置くと、誤った測定値になります。
マイクロホンは2つのドライバーの中間に垂直に置くか、リスニングポジションに置いてください。

インパルス応答を観察する

REWでは、Impulseボタンをクリックすることで、ドライバーのインパルス応答(周波数ではなく時間での応答)を観察することができます。それは次のようなものです。

  1. 測定されたインパルス応答は、両方のドライバーのインパルス応答を組み合わせたものとなります。
  2. それらのインパルスの1つが遅延している場合、2つの異なるインパルスが表示されます。


下図は、あるスピーカーのトゥイーターとミッドレンジドライバー間のインパルス応答を測定したグラフです。
インパルスを分離するために、miniDSPプラグインを使用してミッドレンジドライバーに1ミリ秒の遅延を適用しました。
ここでは2つのインパルスをはっきりと見ることができます。最初にトゥイーター、1ミリ秒ちょっと後にミッドレンジです。

インパルス応答1

グラフ上にカーソルを置くと、各インパルスのピークの時刻を読み取ることができます。ドライバー間の音響遅延は、miniDSPプラグインで、ミッドレンジドライバーに追加した1msを差し引いた値になります。

 1.148 – 0.082 – 1.0 = 0.066 ms

この測定方法は以下の通りです。

  1. すべてのクロスオーバー・フィルターをバイパスする。ドライバーのレスポンスをフラットにするパラメトリックEQは、その設定のままにします。
  2. 次のスクリーンショットのように、マトリクスミキサーを設定します。
    左チャンネルはトゥイーターのみ再生し、これを音響的な時間合わせの基準(Use acoustic timing reference)として使用します。右チャンネルは、トゥイーターとミッドレンジの両方で再生します。
  1. ミッドレンジのディレイを1.0 msに設定します。
  2. 両方のトゥイーター出力チャンネルのディレイをゼロにします。
  3. この例のようにDirac Live®を使用している場合は、プラグインのDiracタブで遅延がゼロであることを確認します。
  4. REWのMeasurement 画面を開きます。
    Use acoustic timing referenceをオンにし、開始周波数と終了周波数を、両方のドライバーがフラットになる範囲に設定します。ここでは、ミッドレンジドライバーに1 kHzから20 kHzを指定しました。
    OutputをRに、Ref OutputをLに設定します。
    次のスクリーンショットの赤丸で囲んだ項目を参照してください。
  1. Startをクリックします。
  2. 測定が完了したらImpulseボタンをクリックし、グラフ軸の制限を調整すると、インパルス応答1のような測定結果になります。

位相の整合を確認する

2つのドライバーをタイムアライメントする理由は、2つのドライバーの位相を合わせるためです。
2つのドライバーが同位相であることを確認するには、片方のドライバーの極性を反転させ、スイープ信号で測定を実行します。ドライバーが同位相で同じ振幅であれば、クロスオーバー周波数でキャンセルされ、レスポンスにノッチが発生します。下図は、トゥイーターの位相を反転させて得られたレスポンスです。

この測定方法は以下の通りです。

  1. ミッドレンジとトゥイーターの間に、4次のリンクウィッツ・ライリー・クロスオーバーを設定します。
  2. ミッドレンジの遅延をゼロにします。
  3. トゥイーターの遅延を先ほど計算した値(この例では0.066ms)に設定します。プラグインは正確な値を設定できないかもしれませんが、最も近い値を選んでください。
  4. スイープ信号で測定を実行します。
  5. Impulse ボタンをクリックして、インパルス応答を表示します。
  6. IR Windowsボタンをクリックして、下図のようにパラメータを設定します(最良の結果を得るために、Right Windowの値を調整する必要がある場合があります)。
  1. Apply Windowsボタンをクリックします。メインの測定ウィンドウで、Windowチェックボックスをオンにします。
    ウィンドウ機能(青いグラフ、窓関数)が反射を減衰させていることがわかるはずです。
  1. SPL & Phaseボタンをクリックし、必要に応じてグラフ軸の制限を調整します。

ウーファーとミッドレンジ間のタイムアライメント

3ウェイ・スピーカーを作る場合、ウーファーとミッドレンジ間の遅延を測定する必要があります。下図は、ミッドレンジドライバーに対するウーファーの音響的な遅延を計算するために使用したインパルス応答の測定結果です。

インパルス応答2

先ほどと同様に、音響遅延はピーク間の差から、プラグインでウーファーに追加された1msを差し引いたものです。

 1.259 – 0.038 – 1.0 = 0.221 ms

この測定方法は以下の通りです。

  1. すべてのクロスオーバー・フィルターをバイパスします。ドライバーのレスポンスをフラットにするパラメトリックEQは、そのままの設定にします。
  2. 次のスクリーンショットに示すように、マトリクスミキサーをセットアップします。
    これにより、左チャンネルがトゥイーターに送られ、再び音響タイミング基準として使用されます。右チャンネルは、主なテストスイープをウーファーとミッドレンジに送ります。
  1. ウーファーのディレイを1.0msに設定します。必要であれば、インパルスをより分離するために、大きな数値に設定することもできます。
  2. ミッドレンジの遅延をゼロにします。
    acoustic timing referenceに使用するトゥイーターの遅延がゼロであることを確認します。
  3. プラグインのDiracタブの遅延がゼロであることを確認します。
  4. 測定スイープを実行します。先ほどと同様に、acoustic timing referenceをオンにし、OutputをRに、Ref OutputをLに設定します。
    開始と終了の周波数は、両方のドライバーがフラットとなる範囲に設定します。この場合、100 Hzから2 kHzを使用しました。
  5. Impulseボタンをクリックし、グラフ軸の制限を調整するとインパルス応答2のような測定結果となります。


必要であれば、位相キャンセルチェックを実行することもできますが、部屋の反射があるため、より厄介です。しかし、クロスオーバー周波数での波長が比較的長いので、時間遅れを正確に把握することはそれほど重要ではありません。
もし試すのであれば、先程のように、Right Windowの値を操作してノッチが得られるかどうか確認してみてください。

プラグインで遅延を設定する

典型的なケースとして、トゥイーターの時間遅延が最も短く、次にミッドレンジ、最後にウーファーがあると仮定します。

  1. ウーファーの遅延をゼロに設定します。
  2. ミッドレンジの遅延を、ウーファーとミッドレンジの間の測定された値(この例では0.221ms)に設定します。
  3. トゥイーターの遅延を、上記のディレイにミッドレンジとトゥイーター間の音響的ディレイを加えた値に設定します(この例では0.221 + 0.066 = 0.287 ms)。


正確な値を設定できない場合がありますので、利用可能な最も近い値に設定してください。以下は、例のスピーカーの出力画面です。

(プラグインによって、小数点以下が3桁表示されるものと、2桁表示されるものがあります)

最後に

クロスオーバーの設定が適正で、すべての設定(PEQ、Xover、Delay、Level)が両チャンネルで同じであることを確認します。
マトリクスミキサーを通常の状態に戻します。

各スピーカーでフルレンジ測定を行い、すべてが期待通りに動作していることを確認します。
すべてがうまくいったら、腰を下ろして曲を再生してみましょう!